「副業、いくらから確定申告が必要ですか」という質問をよくもらいます。正直に言うと、この問いにはあまり乗り気になれません。ラインは法律で決まっているので守るしかないですし、本当に大事なのはその手前にある「自分がいくら稼いで、いくら引かれているのかを把握しているか」だと思っているからです。とはいえ線引きを知らないまま動くのは危ないので、まずは2026年時点のルールを正確に整理します。
「20万円ルール」は、3つの条件がそろって初めて効く
よく言われる「副業は20万円まで申告不要」は、正確には所得税法121条の確定申告不要制度のことを指します。ただし、これは誰にでも当てはまる免除ではありません。前提条件が3つあり、ひとつでも外れると成立しなくなります。
判定するのは「収入」ではなく「所得」
最初に間違えやすいのがここです。20万円で判定するのは売上や振込額ではなく、そこから必要経費を引いたあとの所得です。たとえば副業の売上が45万円あっても、材料費や通信費などの経費が28万円あれば、所得は17万円。この場合は20万円以下と判定されます。
逆に、売上25万円で経費がほとんどかからない仕事(原稿料やコンサル料など)なら、そのまま20万円超になります。同じ「25万円稼いだ」でも結論が変わるので、通帳の入金額だけを見て判断しないことが大切です。
前提は「給与1か所+年末調整済み」
この制度が使えるのは、給与を1か所から受けていて、その勤務先で年末調整が済んでいる人です。給与所得と退職所得を除いた所得の合計額が20万円以下であれば、所得税の確定申告をしなくてよい、という組み立てになっています。
したがって、そもそも年末調整をしていない人(年の途中で退職して再就職していない、給与収入が2,000万円を超えるなど)は、この20万円という数字を使えません。前提が崩れているので、原則どおり確定申告が必要になります。
20万円以下でも申告が必要になる、よくある3つのケース
20万円ルールは「所得税の確定申告」だけを免除する制度です。申告義務が全部なくなるわけではありません。実務でつまずくのは、だいたい次の3つです。
住民税に20万円ルールは存在しない
これが最大の落とし穴です。20万円という基準は所得税法の規定であって、地方税法には同じ免除規定がありません。つまり副業の所得が20万円以下でも、住民税については市区町村への申告が必要になります。
ややこしいのは、所得税の確定申告をした場合は、その情報が税務署から市区町村へ回るので住民税の申告は不要になる、という点です。「確定申告をするなら住民税の申告は不要」「確定申告をしないなら住民税の申告が必要」という関係になっていると理解しておくと整理しやすくなります。
ほかの理由で確定申告をするなら、副業分も必ず合算する
医療費控除を受けたい、ふるさと納税でワンストップ特例を使えなかった、住宅ローン控除の初年度である。こうした理由で確定申告書を出す場合、副業の所得が20万円以下でも、その所得を申告書に含める必要があります。
20万円ルールは「確定申告そのものをしなくてよい」制度なので、申告書を出す時点で前提が消えます。還付を受けるつもりで申告したら副業分の課税が乗って、思ったより戻らなかった、というのはよくある話です。
給与を2か所以上から受けている場合
アルバイトの掛け持ちやスポットワークのように、給与を複数から受け取っている場合は数え方が変わります。年末調整をした勤務先以外の給与収入と、給与以外の所得を合計して20万円以下かどうかで判定します。副業が「業務委託」ではなく「雇用」の形なら、この扱いになると考えてください。
【早見表】自分がどのパターンか、3分で判定する
言葉で追うと混乱しやすいので、代表的なパターンを一枚に並べました。給与は1か所・年末調整済みを前提としています。
| あなたの状況 | 所得税の確定申告 | 住民税の申告 |
|---|---|---|
| 副業所得20万円以下・ほかに申告理由なし | 不要 | 必要 |
| 副業所得20万円以下・医療費控除やふるさと納税で申告する | する(副業分も合算) | 不要(申告書から連携) |
| 副業所得20万円超 | 必要 | 不要(申告書から連携) |
| 副業が赤字(所得がマイナス) | 不要(雑所得の場合は通算もできない) | 自治体の案内に従う |
| 給与が2か所以上ある | 年末調整外の給与+副業所得が20万円超なら必要 | 申告しない場合は必要 |
表の右端の列が空欄になっていない、というのがこの記事で一番伝えたいところです。「20万円以下だから何もしなくていい」という状態は、実はほとんど存在しません。
副業の所得区分は「帳簿があるか」で決まる
金額のラインと並んで質問が多いのが、副業の収入を雑所得で申告するのか、事業所得で申告するのかという論点です。青色申告特別控除や損益通算の可否に直結するので、金額よりこちらのほうが影響は大きくなります。
「300万円問題」は、帳簿の保存に落ち着いた
2022年に国税庁が示した所得税基本通達の改正案では、当初「副業収入300万円以下は雑所得」という線引きが検討されていました。これに多くの意見が寄せられた結果、最終的な通達は帳簿書類を保存しているかどうかで判定する形に修正されています。収入が300万円以下でも、帳簿を備えて保存していれば事業所得として扱われる余地がある、という整理です。
ただし帳簿があれば無条件というわけではなく、収入が僅少である場合や、営利性が認められない場合は個別に判断されます。さらに前々年の収入金額が300万円を超える場合は、請求書や領収書などの現金預金取引等関係書類を5年間保存する義務があります。
経費を集めるなら、記録の仕組みを先に作る
結局のところ、20万円の判定も所得区分の判定も、根っこは同じです。「いくら入って、いくら出ていったかを、後から説明できる形で残しているか」。ここができていないと、経費を引けないので所得が大きく出ますし、事業所得を主張する土台もありません。
手集計でやる理由はもうほとんどないので、銀行口座やカードの明細を自動で取り込めるクラウド型の確定申告ソフト(PR)を年の初めに用意しておくと、翌年の2月に慌てずに済みます。副業を始めた月から入れておくのがおすすめです。
2026年の改正は、20万円ルールを動かさない
2026年(令和8年)分から、基礎控除と給与所得控除の最低保障額が引き上げられ、所得税がかからない給与収入の上限は178万円になりました。ここだけ聞くと「副業の申告ラインも上がったのでは」と思いたくなりますが、そうではありません。
変わったのは控除の額、変わらないのは申告の要否
今回の改正で動いたのは控除の金額であって、確定申告不要制度の20万円という基準そのものには変更が入っていません。年収の壁が178万円に上がった話と、副業所得20万円の話は、まったく別のレイヤーだと考えてください。
むしろ副業をしている人にとって注意すべきなのは、年末調整だけでは精算が終わらないという点のほうです。2026年12月の年末調整で控除の引き上げ分がまとめて反映されますが、それは1か所の給与についての話。副業分は、これまでどおり自分で申告して精算する必要があります。
数字を覚える必要はない、把握する必要がある
控除額や税率を暗記する意味はほとんどありません。申告書等作成コーナーでも会計ソフトでも、入力すれば計算は自動で出ます。覚えるべきなのは金額ではなく、「自分は申告が必要な側か、不要な側か」という構造のほうです。
まとめ:ラインを探すより、一度やってみたほうが早い
ここまで整理してきましたが、僕の本音は「いくらから必要か」を調べる時間があるなら、一度やってみたほうがいいというものです。会社に属さずにお金を生み、それを自分で管理する経験を一度でも通っているかどうかで、身につくスキルも生活の見え方も、はっきり変わると思っています。
確定申告は、自分がいくら稼ぎ、そこからどれだけ控除され、手元に何が残ったのかを一年分まとめて見る作業です。入ってくるお金と出ていくお金のバランスを眺め直すきっかけになりますし、それは人生の設計にそのまま効いてきます。基準を気にする話ではなく、みんなやろうよ、という話。それだけかなと思います。
※本記事は執筆時点の情報にもとづきます。税制・制度は変わることがあるので、最新は国税庁等の公式情報でご確認ください。一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。
note には、仕事やキャリアの考えごとを書いています
公認会計士・税理士として実務で見ていること、キャリアで迷ったこと、お金との距離感。答えの出ていない話も含めて置いています。

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