2026年10月1日から、地域別最低賃金の改定額が順次発効しています。全国加重平均は1,177円。前年度から56円の引き上げで、目安制度が始まって以降では2番目に大きい上げ幅です。
ここで心配になるのが、扶養の範囲で働いている人です。時給が上がれば、同じ年収に届くまでの労働時間は短くなります。だから「去年と同じシフトを組んでいるだけで壁を越えるのでは」と考える。筋は通っています。ただ2026年分については、計算してみると逆でした。
まず、よこまる本人の見解から。「いいことなんじゃない? 時給が上がったんだから。社会保険云々の前に自分の労働の対価が増えていることを素直に喜ぼう」。順番の話です。本記事では、その喜んだあとに来る実務として、時給と壁のどちらが速く上がったのかを数字で確かめます。
よこまる
2026年10月の最低賃金改定で、何がどれだけ上がったのか
最初に事実を押さえます。厚生労働省が2026年9月3日に公表した答申の取りまとめによると、改定額の全国加重平均は1,177円。前年度の1,121円から56円の引き上げです。47都道府県すべてで54円以上上がり、引き上げ額の幅は54円から65円に収まっています。
最高額は1,280円、最低額は1,085円
いちばん高いのは東京の1,280円(改定前1,226円)。いちばん低いのは1,085円で、最高額に対する比率は84.8%。この比率は12年連続で改善しています。主な地域を並べると、神奈川1,279円、大阪1,231円、愛知1,195円。改定前と比べた上げ幅は、東京・神奈川・大阪がいずれも54円です。
注目したいのは、上げ幅の「率」です。東京は1,226円から1,280円なので4.4%、大阪は4.6%、全国加重平均は5.0%。パーセントで見ると、だいたい4〜6%の範囲に収まっています。この数字を、あとで税の壁の上げ幅と並べます。
発効日は都道府県ごとに違う(10月1日〜12月2日)
ここが見落とされやすいところです。改定額は全国一斉に発効するわけではありません。答申された額は、都道府県労働局長の決定により、2026年10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定になっています。
東京・神奈川・大阪・愛知・埼玉・千葉などは10月1日。一方で、京都は11月16日、岩手と熊本は12月1日、沖縄は12月2日です。つまり地域によっては、新しい時給が2026年の収入に乗るのは年末のひと月分だけ、ということが起こります。自分の勤務地がいつからなのかは、都道府県労働局の公示で確認するのが確実です。なお発効日は、答申公示後の異議申出の状況などで変わる可能性があります。
2026年分の「税の壁」は、どこに引かれているか
次に壁の側です。2026年分(令和8年分)は、税制改正で控除の金額がまとまって動いた年にあたります。壁と呼ばれる線がどこに引かれているのかを、国税庁の情報で確認します。
扶養・配偶者の判定は、給与収入136万円
扶養親族に該当するかどうかは、年間の合計所得金額で判定します。この要件が2026年分から62万円以下になりました(2025年分は58万円以下)。給与だけで働いている場合、給与所得控除の最低保障額が2026年分・2027年分は74万円なので、62万円+74万円=給与収入136万円以下が判定ラインです。2025年分は123万円でした。
控除対象配偶者の要件も同じ金額で、2026年分は合計所得62万円以下=給与収入136万円以下。これを超えても、合計所得133万円以下までは配偶者特別控除の対象になります。
本人に所得税がかかり始めるのは、給与収入178万円
働いている本人の側の線も動きました。2026年分の基礎控除は、合計所得金額が132万円以下の人で104万円。給与所得控除の最低保障74万円と合わせると、給与収入178万円までは所得税がかかりません。2025年分は基礎控除95万円+給与所得控除65万円の160万円でしたから、18万円上がったことになります。
19歳以上23歳未満の子は、197万円まで段階的に残る
学生のアルバイトなど、19歳以上23歳未満の子を扶養している場合は、もう一段あります。特定親族特別控除です。2026年分は、子の合計所得が62万円超123万円以下=給与収入でいえば136万円超197万円以下の範囲で、控除が段階的に残ります(2025年分の上限は188万円)。
しかも控除額63万円が維持されるのは、子の合計所得85万円以下=給与収入159万円以下まで。扶養控除の38万円より大きい63万円が、136万円を超えてもしばらく続く設計です。ここは「越えた瞬間に全部なくなる」わけではない、と理解しておくと落ち着きます。制度の中身は「年収の壁178万円」は何が変わった?で、年末調整の書き方は2026年の年末調整、実務はほぼ変わりませんで整理しています。
【早見表】時給と壁、どちらが速く上がったのか
ここが本題です。時給は4〜6%上がりました。では壁はどうか。扶養の判定ラインは123万円から136万円で10.6%、本人に所得税がかかる線は160万円から178万円で11.3%。つまり壁のほうが、時給の倍くらいの速さで上がっています。
壁に当たるまでの「月の持ち時間」は、むしろ4〜5時間増えた
新しい時給で通年働いたと仮定して、扶養の判定ラインに当たるまで月に何時間働けるかを計算しました。2025年分(壁123万円・改定前の時給)と2026年分(壁136万円・改定後の時給)を並べます。
| 地域 | 時給(改定前→改定後) | 2025年分 壁123万円 | 2026年分 壁136万円 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 東京 | 1,226円→1,280円 | 月83.6時間 | 月88.5時間 | +4.9時間 |
| 神奈川 | 1,225円→1,279円 | 月83.7時間 | 月88.6時間 | +4.9時間 |
| 大阪 | 1,177円→1,231円 | 月87.1時間 | 月92.1時間 | +5.0時間 |
| 愛知 | 1,140円→1,195円 | 月89.9時間 | 月94.8時間 | +4.9時間 |
| 全国加重平均 | 1,121円→1,177円 | 月91.4時間 | 月96.3時間 | +4.9時間 |
| 最低額の地域 | 1,023円→1,085円 | 月100.2時間 | 月104.5時間 | +4.3時間 |
どの地域でも、持ち時間は減るどころか月4〜5時間ぶん増えています。壁の引き上げ幅が時給の引き上げ幅を上回ったので、差し引きで余裕が出た、ということです。「時給が上がったから早く壁に当たる」という心配は、2026年分については成り立ちません。
しかも2026年の年収に乗るのは、発効後の数か月分だけ
上の表は、新しい時給で1年間働いた場合の単純計算です。実際の2026年分の年収はもっと動きません。10月1日発効の地域でも、新しい時給が効くのは10月から12月の3か月。京都なら11月16日以降、沖縄なら12月2日以降だけです。
残りの9か月は改定前の時給で働いているので、2026年の年収に上乗せされる金額はごくわずか。年末に向けて慌ててシフトを削る理由は、時給改定の側からは出てきません。
よこまる
では、年末に本当に気をつけることは何か
時給改定が理由にならないなら、見るべきところは別にあります。年末に向けて実際に効いてくる論点を3つ挙げます。
社会保険の側は、時給では動かない
2026年10月1日、短時間労働者が社会保険に加入する要件のうち、賃金要件(所定内賃金が月額8.8万円以上)が撤廃されました。いわゆる106万円の壁がなくなった、という改正です。残っている要件は、週の所定労働時間が20時間以上であること、勤め先の従業員数が51人以上であること、学生ではないこと。
つまり加入の判定は、金額ではなく労働時間で決まる形に寄りました。時給が上がっても、週の所定労働時間が変わらなければ社会保険の判定は動きません。逆に、時給が低いままでも週20時間以上なら加入対象になります。この点は106万円の壁が2026年10月に撤廃。次に効くのは「週20時間の壁」で詳しく整理しています。
危ないのは、時給改定以外で年収が動いた人
壁を越えるリスクが上がっているのは、時給が上がった人ではなく、働く量そのものが変わった人です。シフトを増やした、人手不足で代わりに入る日が増えた、短期の仕事を掛け持ちした、賞与が出た。こうした要因は時給改定とは比べものにならない金額で年収を動かします。
確認の順番としては、まず直近の給与明細で1月からの累計支給額を見て、残り月数ぶんを足して着地点を出す。これが一番早いです。去年の源泉徴収票の年収を基準にすると、今年の変化が丸ごと視界から外れます。
税の壁以外にも線があることを忘れない
ここまでは所得税の話です。実務ではもう2つ、別の線があります。ひとつは住民税。非課税となる限度額は自治体ごとに違うので、お住まいの市区町村の案内で確認してください。もうひとつは勤務先の家族手当・扶養手当です。こちらは法律ではなく各社の規程なので、税制改正に自動では連動しません。「税の扶養は外れていないのに手当が止まった」ということが起こり得ます。支給条件は勤務先の規程で確かめるのが確実です。
よこまる
まとめ
2026年10月の最低賃金改定で、全国加重平均は1,177円になりました。ただし税の壁も同時に動いていて、扶養の判定ラインは123万円から136万円へ10.6%、本人に所得税がかかる線は160万円から178万円へ11.3%。時給の上げ幅4〜6%より速いので、壁に当たるまでの持ち時間は月4〜5時間ぶん増えています。年末に慌ててシフトを削る理由は、時給の側からは出てきません。
そのうえで、よこまるはこの件をこう見ています。前から言っているとおり、しょうもない悩み。そこを気にする前に、給料を上げるほう・稼ぐほうを動かしたほうが早い。年収の壁をめぐる議論は過大評価されている、という立場は一貫しています。
それでも気になる人への答えも、はっきりしています。「どうしても気になるなら今年だけはシフト減らしてみたら? 来年からは堂々と壁なんか超えて稼ごうよ!」。実際、新しい時給が通年で乗るのは2027年分からです。今年の調整は今年の話として、来年は越える前提で考える。順番としては、そのほうが素直でしょう。
そしてもうひとつ、よこまるが時給が上がったことについて付け加えていた条件があります。「なぜ上がったのかを考え抜こう(自分の価値が上がったならOK。ただ最低賃金が上がっただけならだめ)」。報酬の決まり方について、よこまるは「結局そこから生み出している付加価値、利益の部分」と言ってきました。最低賃金の改定で上がった54円は、自分が生み出す価値が増えた結果ではありません。壁の手前で時間を削る算段よりも、そこを考えるほうが、来年の手取りには効いてきます。
※本記事は執筆時点の情報にもとづきます。税制・制度は変わることがあるので、最新は国税庁等の公式情報でご確認ください。一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。
note には、仕事やキャリアの考えごとを書いています
公認会計士・税理士として実務で見ていること、キャリアで迷ったこと、お金との距離感。答えの出ていない話も含めて置いています。

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