「教育費は定期預金で確実に準備するか、それともNISAで運用しながら伸ばすか」。子育て世帯の定番の悩みです。ただ、僕の答えを先に言うと、この問いの立て方自体がずれています。多くの人が迷うポイントなのは理解しているのですが、教育費は投資かキャッシュかを考えるずっと手前で埋めておくべき項目。順番を間違えたまま議論しても、答えは出ません。
「投資かキャッシュか」は、二番目に考えること
お金の置き場所の議論は、本来「金額が決まっているもの」と「金額が決まっていないもの」を分けたうえで行うものです。老後資金のように、いつ・いくら必要かが曖昧なお金は、長い時間を味方につけて増やす対象になります。一方で教育費は、子どもの年齢が分かった時点で、支払いのタイミングも金額もかなりの精度で見えている支出。性質がまったく違います。
なぜ問いの立て方がずれるのか
「教育費と資産形成、どっちを先にやるか」と並べた瞬間に、この二つが同じ土俵にあるように見えてしまいます。でも実際には、教育費は資産形成の選択肢の一つではなく、期日と金額が決まった確定的な支出です。家計でいえば、投資するかどうかを検討する項目ではなく、先に確保しておく項目。
だから最初にやるべきことは、運用手段を比べることではありません。必要額を算出すること、そしてそれを最短で確保する工夫と努力をすること。この二つです。置き場所の話は、その後にようやく出てきます。
よこまる
費目別で考えるか、家計全体で考えるか
「教育費を別枠で積むのか、それとも家庭全体の資産を大きくしておけば自然に払えるのか」。これはよく聞かれますが、人それぞれの思考次第だと思っています。僕は会計士なのでどうしても費目別に考えてしまうタイプですが、家計を全体で捉えて管理できる人なら、もちろんそれで構いません。
どちらの流儀でも共通して必要なのは、結局「必要額をいくらと見積もったか」を自分が把握していること。ここが空欄のまま別枠を作っても、いくら貯めれば終わりなのか分かりません。
STEP1|進路パターン別に、必要額を出す
必要額を出す作業は、「かかる額を積み上げる」と「自動で入ってくるお金を引く」の二段階です。
必要額は、進路の想定で大きく動きます。まずは公的な統計で輪郭をつかむところから。
高校卒業までの15年分
文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」によると、幼稚園3歳から高校3年生までの15年間でかかる学習費総額(学校教育費・学校給食費・学校外活動費の合計)は、学校種別の平均を積み上げると次のようになります。
| 進路パターン | 15年間の学習費総額 |
|---|---|
| すべて公立 | 約614万円 |
| 幼稚園だけ私立、あとは公立 | 約665万円 |
| 幼稚園・小学校は公立、中学・高校が私立 | 約1,092万円 |
| すべて私立 | 約1,969万円 |
大学4年分
大学は授業料と入学料が中心です。国立大学は標準額で入学料282,000円・授業料が年535,800円。文部科学省の「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果」では、私立大学(学部)の初年度学生納付金等の平均が1,507,647円(うち授業料968,069円、入学料240,365円、施設設備費172,550円)でした。
これを4年分に伸ばすと、国立で約243万円、私立の平均で約493万円。ただし国立大学の授業料は標準額であって、大学によってはこれを超える設定にしているところがあります。志望校が決まっているなら、必ずその大学の実額で置き換えてください。自宅外通学なら、ここに生活費が別途乗ります。
2026年4月に、高校の授業料支援が変わっている
ここは必要額の見積もりに直接効くので、数字を更新しておいてください。高等学校等就学支援金は2026年4月1日施行の新制度で所得制限が撤廃され、支給上限額は年額で公立118,800円、私立(全日制)457,200円になりました(私立の通信制は337,200円)。
上の学習費の表は令和5年度の調査、つまりこの改正より前の数字です。とくに私立高校の部分は、今後この支援の分だけ下がる方向に動きます。古い試算をそのまま使っていると、必要額を多めに見積もったままになります。
児童手当は、手をつけなければ約234万円
こども家庭庁の児童手当は、2024年10月の拡充で高校生年代(18歳到達後の最初の年度末)まで対象になり、所得制限も撤廃されています。月額は3歳未満が15,000円、3歳から高校生年代までが10,000円(いずれも第3子以降は30,000円)。
第1子・第2子の場合、生まれてから高校生年代までを通算すると約234万円になります(生まれ月によって前後します)。これを生活費に溶かさず、丸ごと教育費の口座に残すだけで、必要額の一角がすでに埋まっている状態を作れます。
【早見表】進路別・自分で用意する額
15年間の学習費と大学4年分を足し、そこから児童手当の約234万円を引くと、輪郭がはっきりします。
| 進路パターン | 高校まで+大学4年 | 児童手当を引いた額 |
|---|---|---|
| すべて公立+国立大学 | 約857万円 | 約623万円 |
| すべて公立+私立大学 | 約1,107万円 | 約873万円 |
| 中学・高校が私立+私立大学 | 約1,585万円 | 約1,351万円 |
| すべて私立+私立大学 | 約2,462万円 | 約2,228万円 |
この数字を一度でも出しておくと、「なんとなく不安」が「あと何年で、いくら」に変わります。そこからやっと、具体的な工夫と努力の話ができる。
STEP2|「貯めておく額」と「毎月払う額」を分ける
ここが実務的に一番大事なところです。上で出した必要額の全部を、事前に現金で積んでおく必要はありません。
公立小中では、学習費の6〜7割が塾や習い事
同じ調査の内訳を見ると、公立小学校の年間学習費総額366,599円のうち学校外活動費が256,489円(70.0%)、公立中学校では542,450円のうち356,018円(65.6%)を占めます。塾や習い事の費用が中心ということです。
これは毎月の家計から払っていく性質のお金で、事前に積み上げておく対象ではありません。しかも金額を自分で決められる部分でもある。ここを「貯めるべき額」に混ぜてしまうと、必要額が過大になって、達成不可能な目標に見えてきます。
まとまって出ていくのは、受験と入学のタイミング
逆に、事前に現金で持っていないと詰むのは、短期間にまとまって出ていくお金です。具体的には、私立中学・高校の入学時、そして大学の受験料と入学時。私立大学なら初年度に平均約151万円が、合格発表から入学までの短い期間に必要になります。
つまり「貯めておく額」の本体は、大学入学前後に集中しているということ。高校までは基本的にフローで払い、児童手当を残し、大学のまとまった支出に向けて現金を積む。これが設計の骨格です。
よこまる
STEP3|置き場所は、使うまでの残り年数で決まる
ここでようやく、最初の問いに戻ってきます。必要額と、それを使う時期が決まれば、置き場所はほぼ自動的に決まります。
| 使うまでの残り年数 | 置き場所の考え方 |
|---|---|
| 3年以内 | 全額キャッシュ。普通預金や定期預金で、金額が動かない状態にしておく |
| 5〜10年 | 必要額に届いていない分はキャッシュを優先。届いた先の余力だけが別の話になる |
| 10年以上 | 確保のペースが見えているなら、超過分は長期の非課税枠を使う選択肢が出てくる |
キャッシュは何より強い。キャッシュがあるから人生を選べるし、やりたいことができる。教育費はまさにそれが問われる場面です。大学入学の年に相場が2割下げていても、入学金の支払期限は待ってくれません。
iDeCoは教育費には使えない
ここは間違えると取り返しがつかないので、はっきり書いておきます。iDeCoは原則60歳まで引き出せません。僕はiDeCoを、未来まで現金を封印して使えないようにする策だと捉えています。老後資金としては合理的でも、18年後に使うと決まっているお金の置き場所としては成立しません。
節税額の大きさだけを見てiDeCoに寄せると、いざ大学入学のときに「資産はあるのに払えない」という状態になります。教育費とiDeCoは、別の口で考えてください。
必要額を確保できた、その先のお金
必要額の確保に目処が立って、なお余力がある。そこではじめて、10年20年で伸びると思える対象に、そう思える気持ちでできる投資をする、という話になります。非課税枠をどう使うかを検討するのもこの段階です。証券口座の選択肢を整理しておきたい方は楽天証券(PR)のような大手ネット証券から比較してみてください。順番として、教育費の目処が先です。
足りないと分かったときにやること
必要額を出してみて、現実的に届かないと分かる家庭もあると思います。そのときに運用でギャップを埋めようとするのは、順番としては逆です。
まず、収入を増やす側を見る
僕は、日本では自分がいくら欲しいのかを自己表現しないことが、生産性もやりがいも下げていると思っています。報酬を決めるのは、そこから生み出している付加価値です。数値的な意味でキャッシュフローを生む仕事に就いていて、そこでさらに価値を高める行動ができていれば、給料は上がる。
教育費の不足を前にして本当に考えるべきなのは、利回りを何パーセント上げるかではなく、収入そのものをどう動かすか。工夫と努力を使う先はそこです。
それでも足りないなら、制度を先に確認する
あわせて、高等教育の修学支援新制度(授業料等減免と給付型奨学金)、日本学生支援機構の貸与型奨学金、日本政策金融公庫の「国の教育ローン」といった手段があります。どれも要件と申込時期が決まっているので、必要になってから調べるのでは間に合いません。必要額の試算と同じタイミングで、一度目を通しておいてください。
よこまる
まとめ
教育費と資産形成は、どちらを先にやるかという二択ではありません。教育費は期日と金額が決まった確定的な支出で、資産形成の議論に入るずっと手前で埋めておく項目。やることは三つです。必要額を算出する、児童手当など自動で入るお金を引く、残りを最短で確保する。置き場所の話は、そのあとで自然に決まります。
※本記事は執筆時点の情報にもとづきます。税制・制度は変わることがあるので、最新は国税庁等の公式情報でご確認ください。一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。
note には、仕事やキャリアの考えごとを書いています
公認会計士・税理士として実務で見ていること、キャリアで迷ったこと、お金との距離感。答えの出ていない話も含めて置いています。

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