退職金をいざ受け取るとき、「一時金(まとめて)」「年金(分割)」「併用」の3つから選べる会社が増えています。同じ退職金でも、選び方ひとつで手取りが数十万円から百万円単位で変わることも。制度の話をする前に、まず僕の立場をはっきり言っておきます。
とはいえ、これはあくまで僕の価値観。正解は人によって変わります。判断の材料になるように、税金・手取り・リスクの3つの角度から、フラットに整理していきます。
退職金の受け取り方は「一時金・年金・併用」の3つ
まずは選択肢の中身から。会社の退職給付制度によって選べる形は違いますが、代表的なのは次の3パターンです。
一時金:退職時にまとめて受け取る
退職のタイミングで全額を一括で受け取る形です。税制上は「退職所得」として扱われ、後述するとおり非常に手厚い優遇があります。まとまった資金が手元に入るので、住宅ローンの完済や新しい挑戦の元手にも使えます。
年金:分割して定期的に受け取る
10年・15年などの期間にわたって分割で受け取る形です。会社によっては「据置期間中に一定の利率で運用される」設計になっていて、総受取額が一時金より多くなるケースもあります。ただし税制上は「雑所得(公的年金等)」として、受け取るたびに課税されます。
併用:一部を一時金、残りを年金で
「半分は一時金、残りは年金」のように組み合わせる形です。退職所得控除の枠を一時金部分で使い切りつつ、残りを年金で受け取って長生きに備える、といったいいとこ取りが狙えます。
いちばん差が出るのは「税金」
受け取り方で手取りが変わる最大の理由が、課税ルールの違いです。ここが今回いちばん大事なところ。
一時金は「退職所得控除+2分の1課税」で圧倒的に有利
一時金で受け取ると「退職所得」になります。ここには2段構えの優遇があります。
- 退職所得控除:勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えた分は1年あたり70万円が非課税枠になります(勤続30年なら 800万円+70万円×10年=1,500万円まで非課税)。
- 2分の1課税:控除を引いた後の金額を、さらに半分にしてから課税します。しかも他の所得と分けて計算する「分離課税」です。
退職所得の計算式は (退職金−退職所得控除)×1/2。たとえば勤続30年で退職金2,000万円なら、控除1,500万円を引いた500万円の半分=課税対象は250万円だけ。給与と同じ金額をもらうのとは、税負担がまるで違います。
もう少し身近な例も見てみましょう。勤続20年・退職金1,000万円のケースなら、退職所得控除は40万円×20年=800万円。課税対象は(1,000万円−800万円)×1/2=100万円だけになります。分離課税で税率も低く抑えられるため、税負担は数万円程度。退職金の大半がそのまま手元に残る計算です。控除枠に収まる、あるいは少し超える程度なら、一時金の税メリットはとても大きいことがわかります。
年金は「雑所得」で毎年課税、社会保険料にも響く
一方、年金形式で受け取ると「公的年金等の雑所得」になります。公的年金等控除は使えるものの、老齢厚生年金など他の公的年金と合算して課税されるため、受給額によっては所得税・住民税の対象になります。さらに見落としがちなのが社会保険料。年金所得が増えると、国民健康保険料や介護保険料の負担が上がることがあります。「税金だけ」で比べると、この部分を取りこぼします。
受け取り方別・ざっくり比較
それぞれの特徴を一枚にまとめると、こう整理できます。
| 比較軸 | 一時金 | 年金 | 併用 |
|---|---|---|---|
| 税制上の区分 | 退職所得 | 雑所得(公的年金等) | 両方 |
| 税の優遇 | 退職所得控除+1/2課税(手厚い) | 公的年金等控除(毎年課税) | 枠を按分 |
| 社会保険料への影響 | 受取時は影響小 | 負担が増えることあり | 年金部分に影響 |
| 総受取額 | 提示額どおり | 運用利率で増える設計も | 中間 |
| 向いている人 | 控除枠が大きい・使い道が明確 | 浪費が不安・長生きに備えたい | バランス重視 |
では、どう選ぶか
数字の有利・不利だけなら、退職所得控除の枠に収まる範囲は一時金が強いことが多いです。ただ、選び方は税金だけで決めるものではありません。実務では、退職金の受け取り方は退職の直前に会社から案内され、選択できる期限も短いことがよくあります。だからこそ、退職が視野に入った段階で、自分の勤続年数と退職金の見込み額をざっくりでも把握しておくと、いざというときに慌てず選べます。次の3つの視点で考えてみてください。
「退職所得控除の枠」を先に確認する
まずは自分の勤続年数から退職所得控除の枠を計算し、退職金がその枠に収まるかを見ます。枠内にほぼ収まるなら、一時金で受け取っても税負担はごく軽くなります。逆に退職金が控除枠を大きく超える場合は、超過分を年金に回して課税を平準化する、という併用の判断も出てきます。
「長生きリスク」と「使い切れないリスク」を天秤にかける
年金形式の良さは、毎月決まって入ってくる安心感と、運用利率が付く設計ならではの増加です。浪費が心配な人、長生きに手厚く備えたい人には合理的な選択です。一方で、まとまったお金を自分のタイミングで使いたい人にとっては、分割は機会を逃す面もあります。ここは価値観の問題です。
iDeCoや企業型DCがある人は「受け取り年」の重ね方に注意
iDeCoや企業型確定拠出年金を一時金で受け取る場合も退職所得控除を使いますが、退職金と近い年に重ねて受け取ると、控除枠が調整されて思ったほど非課税にならないことがあります。複数の退職給付がある人は、受け取る年をずらすだけで手取りが変わることも。ここは事前のシミュレーションが効きます。
まとめ:数字で当たりをつけ、価値観で決める
退職金は、退職所得控除の枠を確認して一時金の有利さで当たりをつけ、そのうえで「長生きへの備え」と「自分の時間の使い方」という価値観で最終判断する——この順番がおすすめです。僕自身は一時金派ですが、それは「元気にお金を使える時間は限られている」という僕の時間観からの結論。あなたの答えは、あなたの人生設計から出てくるはずです。迷ったら、勤続年数と退職金額を紙に書き出すところから始めてみてください。
※本記事は執筆時点の情報にもとづきます。税制・制度は変わることがあるので、最新は国税庁等の公式情報でご確認ください。一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。
note には、仕事やキャリアの考えごとを書いています
公認会計士・税理士として実務で見ていること、キャリアで迷ったこと、お金との距離感。答えの出ていない話も含めて置いています。


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