投資用ワンルームマンションの「節税できます」という話について、僕はずっと同じことを思っています。あれは罠とか詐欺とか、そういう話ではないんですよね。単純に、知識不足のまま投資させられる人が多い。それだけです。仕組み自体は税法どおりに動いているので、理解した上で選ぶなら止める理由はありません。問題は、理解しないまま契約書に判を押している人が多すぎることのほうです。
「節税できます」の中身は、減価償却で赤字をつくること
まず、売られている理屈そのものを正確に押さえておきます。ここが曖昧なままだと、何を検証すればいいかも分かりません。
給与と損益通算して、源泉徴収された所得税が戻る
投資用マンションを買うと、家賃収入は不動産所得になります。この不動産所得の計算では、家賃から管理費・修繕積立金・賃貸管理料・固定資産税・ローンの利息、そして減価償却費を差し引きます。
減価償却費は、建物の取得価額を法定耐用年数にわたって費用に振り分けていく処理です。鉄筋コンクリート造の住宅なら法定耐用年数は47年、定額法の償却率は0.022。建物部分が1,750万円なら、年間38万5,000円が経費として計上されます。ポイントは、この38万5,000円は現金が出ていかない経費だということ。
その結果、不動産所得が赤字になります。所得税では、不動産所得の赤字は給与所得と損益通算できます。給与から源泉徴収されていた所得税が計算し直され、確定申告で還付される。翌年の住民税も下がる。これが「節税できます」の正体です。
ただし、減価償却した分だけ建物の簿価は下がっていく
ここから先が、営業の場ではあまり丁寧に説明されない部分です。
減価償却を計上すると、その分だけ建物の帳簿上の価額(簿価)が下がっていきます。5年持てば192万5,000円、10年持てば385万円。そして将来この物件を売るとき、譲渡所得は「売却価額 − 取得費 − 譲渡費用」で計算され、この取得費は減価償却した分だけ小さくなっている。つまり、減価償却で圧縮した所得は、売却の瞬間に譲渡所得として戻ってきます。
減っているのではなく、後ろに送っているだけ。まずここを理解していない人が、非常に多いと思っています。
【早見表】その繰延べ、自分の税率で見て得なのか損なのか
課税の繰延べ自体は、必ずしも悪いことではありません。本来なら、入口で高い税率で減らして、出口で低い税率で払うから得をする、という構造で成立する話です。だから検証すべきは一点だけ。入口で戻る率と、出口で取られる率、どちらが高いのか。
入口で戻る率は「所得税率+住民税10%」
損益通算で戻るのは、所得税(+復興特別所得税2.1%分)と、翌年の住民税10%です。だから入口の実効的な率は「所得税率 × 1.021 + 10%」。
一方、出口で取られるのは譲渡所得への課税です。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得で20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)。5年以下なら短期譲渡所得で39.63%と、およそ2倍になります。
所得税率10%以下なら、繰延べですらなく逆ザヤ
この2つを並べたのが下の表です。所得税率ごとに、入口で戻る率が出口の20.315%を上回っているかどうかを整理しました。
| 所得税率 | 課税所得の目安 | 入口で戻る率 (所得税×1.021+住民税10%) | 出口の税率 (長期譲渡) | 差引 |
|---|---|---|---|---|
| 5% | 195万円以下 | 15.105% | 20.315% | −5.21ポイント |
| 10% | 195万円超〜330万円以下 | 20.210% | 20.315% | −0.11ポイント |
| 20% | 330万円超〜695万円以下 | 30.420% | 20.315% | +10.11ポイント |
| 23% | 695万円超〜900万円以下 | 33.483% | 20.315% | +13.17ポイント |
| 33% | 900万円超〜1,800万円以下 | 43.693% | 20.315% | +23.38ポイント |
表の上2段を見てください。所得税率5%の人は、入口で15.105%しか戻らないのに、出口では20.315%を払います。所得税率10%の人でも20.210%対20.315%で、ほぼトントン、正確にはわずかに負けています。繰延べですらなく、本来納めるべきだった税金より多く納めて終わるということです。
そして僕の実感として、ワンルーム節税に引き込まれていく人の多くは、この上2段にいます。年収600万円くらいの会社員でも、給与所得控除と社会保険料控除、基礎控除、扶養控除まで引いた「課税所得」は思っているより小さい。手取りの感覚と課税所得の感覚がズレたまま、「節税になりますよ」という言葉だけを受け取ってしまう。
そもそも、赤字の全部が損益通算できるわけではない
もうひとつ、表に出てきにくい制限があります。これを知らずに試算していると、還付額の見込みが実際より大きく出ます。
土地を買うための借入利子は、通算の対象から外れる
租税特別措置法41条の4により、不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、他の所得と損益通算できません。マンションの購入価額には土地の持分が含まれていて、ローンもその土地分を含めて借りています。その土地分に対応する利息は、赤字をつくることはできても、給与とぶつけることはできないわけです。
【試算】年29万円の持ち出しに対して、戻ってきたのは約7,400円
前提を置いて具体的に計算してみます。物件価格2,500万円(建物1,750万円・土地750万円)、フルローン、金利2.0%・35年返済、家賃は月8万円とします。
| 項目 | 年間金額 | 現金の動き |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 960,000円 | 入る |
| 管理費・修繕積立金 | −144,000円 | 出る |
| 賃貸管理料(家賃の5%) | −51,000円 | 出る |
| 固定資産税・都市計画税 | −70,000円 | 出る |
| ローン利息(初年度概算) | −495,000円 | 出る |
| 減価償却費(1,750万円×0.022) | −385,000円 | 出ない |
| 不動産所得 | −185,000円 | — |
| うち土地の負債利子相当(土地比率30%) | 148,500円 | 通算不可 |
| 損益通算できる赤字 | 36,500円 | — |
18万5,000円の赤字が出ているのに、給与とぶつけられるのは3万6,500円だけ。所得税率10%の人なら、戻ってくるのは 36,500円 × 20.21% = 約7,400円です。
では、現金はどうなっているか。家賃96万円から管理費等26万5,000円とローン返済99万3,788円(元利合計)を引くと、年間およそ29万9,000円の持ち出し。ここに還付の7,400円が戻ってきて、実質の持ち出しは年29万円ほど。もちろん、この間にローンの元金は約49万8,000円減っているので、それが資産形成だという説明は成り立ちます。ただ、それは「節税」の話ではありません。
減価償却が切れたあとに来る「デッドクロス」
時間軸を伸ばすと、もうひとつの論点が出てきます。
帳簿は黒字、手元は赤字という状態
減価償却費は経費なのに現金が出ていきません。逆に、ローン返済の元金部分は現金が出ていくのに経費になりません。保有期間が長くなるほど返済に占める元金の割合は増え、中古で買った場合は償却期間も短いので減価償却は先に終わります。この2つが交差すると、帳簿上は黒字なので税金は増えるのに、手元の現金は出ていく一方という状態になります。これが一般にデッドクロスと呼ばれるものです。
この局面で「もう持ちきれない」となって売却に向かうと、出口の話が現実になります。
売却時に効いてくるのは、通算できなかった分の減価償却も同じ
ここが一番見落とされる点です。入口で損益通算できなかった減価償却も、出口では等しく取得費を押し下げます。 土地の負債利子の制限で通算できなかったからといって、減価償却がなかったことになるわけではないからです。
先ほどの前提で5年保有した場合、減価償却の累計は192万5,000円。取得費がその分小さくなるので、譲渡所得は192万5,000円ぶん増えます。長期譲渡(譲渡した年の1月1日時点で5年超)なら追加の税は約39万1,000円、短期譲渡なら約76万3,000円。一方、5年間で戻ってきた税金の累計は約3万7,000円です。入口と出口で、桁がひとつ違います。
もっとも、売却価額が下がって譲渡損になれば、この課税自体が起きません。ただしそれは、物件が値下がりしたということです。税金が出ないことを安心材料にはできません。
勧誘されたときに確かめることは、たった2つ
ここまでが仕組みの話です。最後は僕の見方を書きます。
税の仕組みを、自分の言葉で説明できるか
その場で確かめるべき質問をひとつだけ挙げるなら、「税の仕組みをちゃんと理解できているか」です。相手にではなく、自分に対して問うほうです。減価償却がなぜ赤字をつくるのか、その赤字は売るときにどこへ行くのか、自分の課税所得はいくらで税率は何%なのか。これを自分の言葉で説明できないなら、判断材料が揃っていません。
僕がずっと「自分の数字は自分で把握しておいたほうがいい」と言っているのは、こういうところに効いてくるからです。自分がどれだけ稼いで、そこからどれくらいの所得控除をしてもらっているのか。それを一度でも自分の手で計算していれば、「節税になります」という言葉を聞いた瞬間に、自分の税率と20.315%を並べて考えられます。iDeCoの出口の話を書いたときにこのテーマに触れたのも、根っこは同じで、制度そのものより自分の税率を把握しているかどうかで結論が変わるからです。
その物件自体に、価値はあるか
もうひとつは、税を全部横に置いたときに、その物件自体に価値があるかです。立地、賃料の相場、管理の状態、出口で買い手がつくか。ここが成立していないものを、税制上の理屈だけで正当化しないほうがいい。
これは以前に書いた持ち家と賃貸の話とも同じ構造です。僕が借地権付きマンションを買う人を見て「意味がわからない」と思うのも、理由はここにあります。あれは持ち家ではなく、簡単に手放せない賃貸を借りているのと変わらない。持ち家のメリットだと思って買ったものが、実は全部抜け落ちている。ワンルーム節税と借地権付きマンション、この2つに共通しているのは、引っかかる人の性格でも欲でもなく、単純に知識が足りていないことです。
まとめ
ワンルームマンションの節税は、減価償却で不動産所得を赤字にして給与と損益通算する仕組みです。ただし減価償却した分だけ建物の簿価は下がり、売却時に譲渡所得として戻ってくる。実態は課税の繰延べであり、入口で戻る「所得税率+住民税10%」が出口の20.315%を上回っていなければ、繰延べの利益は出ません。所得税率10%以下ならむしろ逆ザヤです。
それでも、税を理解した上で物件そのものに価値があると判断して買うなら、それは立派な投資判断だと思います。住宅ローンを繰り上げ返済しない判断と同じで、仕組みを分かった上で選んだものは強い。逆に、分からないまま「節税」の二文字で決めたものは、たいてい後から効いてきます。まずは自分の課税所得と税率を、一度きちんと確認してみてください。
※本記事は執筆時点の情報にもとづきます。制度・市況は変わることがあります。投資判断はご自身の責任でお願いします。
note には、仕事やキャリアの考えごとを書いています
公認会計士・税理士として実務で見ていること、キャリアで迷ったこと、お金との距離感。答えの出ていない話も含めて置いています。

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