持ち家か賃貸か。このテーマ、ほんとうに色々な人が色々なことを言います。ただ僕は、税理士としても会計士としても、そしてある程度お金のことを考えてきた一人の人間としても、どう考えても持ち家のほうが上だと思っています。賃貸はお金が出ていくだけで、最後に何も残らない。まずそこが出発点。この記事では、その感覚を数字と制度で一度きちんと裏づけてみます。
「賃貸のほうが得」が構造的に成り立ちにくい理由
持ち家と賃貸の比較は、しばしば「家賃と住宅ローン返済額のどちらが安いか」という話になります。ただ、その比べ方だと大事な前提がひとつ抜け落ちます。それは、家賃を受け取っている人がいるという事実。
家賃には、貸す側の利益が必ず乗っている
賃貸物件は、誰かが所有していて、それを貸してくれています。オーナー側から見れば、物件の取得費・ローン金利・固定資産税・修繕費・管理会社への手数料・空室リスク、これらを全部まかなったうえで利益が出る水準に家賃を設定するのが当たり前。慈善事業ではないので当然のこと。
つまり家賃とは、その家を持つコストの全額に、貸す側の利益と空室リスクのプレミアムを上乗せした金額。それを毎月払っている構図です。ここを踏まえると、「賃貸のほうがトータルで安く済んだ」という結論は、構造的にはかなり起きにくいことが分かります。起きるとすれば、それは大家さん側が読み違えたか、相場が大きく動いたかのどちらか。
それでも賃貸を選ぶ人が買っているのは「自由」
では賃貸に意味がないのかというと、そうではありません。転勤の可能性がある、数年内に海外に出るかもしれない、独立するので数年後の収入が読めない。こうした事情がある人にとって、いつでも動ける状態は明確な価値。
ただし、それは損得の話ではなく、自由と不確実性に対してコストを払っているという話。ここを混同したまま「賃貸のほうが得」と言ってしまうと、判断を間違えます。自由が必要な時期は賃貸、腰を据える時期は持ち家。そういう順番で考えるほうが自然です。
30年で比べる:出ていくお金と、残るもの
感覚論だけでは動けないので、数字で一度並べてみます。あくまで例示の前提であり、地域・物件・金利で結果は変わります。
比較の前提(例示)
- 持ち家:物件価格5,000万円、頭金500万円、借入4,500万円、全期間固定・年1.0%・35年返済(毎月返済 約12.7万円)。固定資産税・修繕積立金・管理費などで月3万円を別途負担
- 賃貸:家賃月12万円、2年ごとに更新料1か月分
- 30年後の持ち家の売却価値は購入価格の6割(3,000万円)と仮定
30年後の比較表
| 持ち家 | 賃貸 | |
|---|---|---|
| 30年間に出ていったお金 | 約6,150万円 (頭金500万+返済4,573万+維持費1,080万) | 約4,500万円 (家賃4,320万+更新料180万) |
| 30年後のローン残高 | 約743万円 | — |
| 30年後に残る資産 | 約2,260万円 (時価3,000万−残債743万) | 0円 |
| 差引 | 持ち家が約1,650万円多く払い、約2,260万円が手元に残る → 差引で約600万円プラス | |
数字にしてみると、劇的な差ではありません。そしてこの結論は、30年後にいくらで売れるかという一点にかなり依存します。仮に売却価値が購入価格の4割(2,000万円)まで落ちれば、残る資産は約1,260万円となり、差引はマイナスに転じます。持ち家が有利になるかどうかは、立地と物件選びで決まると言い換えてもいいくらい。
差額を投資に回せる人なら、話は変わる
賃貸派の主張のなかで、唯一きちんと成立するのがこれ。持ち家の月々の負担(返済12.7万円+維持費3万円=15.7万円)と家賃12万円の差額、さらに頭金の500万円。これらを全部、30年間ぶれずに運用に回せるなら、賃貸側の最終的な金融資産が持ち家の含み益を上回る計算も成り立ちます。
ただ、ここには2つの条件がつきます。ひとつは、30年間一度も崩さずに積み立て続けられること。もうひとつは、その間の相場に耐えられること。持ち家のローン返済は否応なく強制貯蓄として機能しますが、任意の積立は簡単に止まります。理屈として成立することと、実際にやり切れることは別の話。
持ち家側にだけ働く、2つの制度的な追い風
上の試算にはまだ織り込んでいない要素があります。それが住宅ローン控除と団体信用生命保険。どちらも持ち家側にしか効きません。
2026年入居の住宅ローン控除
住宅ローン控除は、年末時点のローン残高に0.7%を掛けた金額が所得税(控除しきれない分は住民税の一部)から差し引かれる制度。2025年12月の税制改正大綱で適用期限が5年延長され、2026年1月1日から2030年12月31日までの入居が対象になりました。2026年入居分の新築・買取再販の借入限度額は次のとおり。
| 住宅の区分 | 一般世帯 | 子育て世帯・若者夫婦世帯 | 控除期間 |
|---|---|---|---|
| 認定長期優良住宅・低炭素住宅 | 4,500万円 | 5,000万円 | 13年 |
| ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 | 4,500万円 | 13年 |
| 省エネ基準適合住宅 | 2,000万円 | 3,000万円 | 13年 |
借入限度額4,500万円の区分なら、初年度の控除額は最大で年31.5万円。13年間の累計では数百万円規模になります。省エネ基準を満たさない新築は2026年入居から控除の対象外という点も重要。また2026年入居分からは、省エネ性能を満たす中古住宅の控除期間も10年から13年に拡充されています。
(出典:国土交通省「住宅ローン減税」/国税庁タックスアンサー)
団体信用生命保険という、見落とされがちな価値
住宅ローンにはたいてい団体信用生命保険が付いています。契約者に万一のことがあれば、残っているローンが完済され、家族には家がそのまま残る仕組み。
賃貸には、これに相当するものがありません。同じ安心を得ようと思えば、数千万円の死亡保障を別途買う必要があります。上の比較表で賃貸側に生命保険料が乗っていないのは、実はフェアではないということ。超低金利で、団信が付いていて、しかも所得税まで戻ってくる。これほど条件のいい借入は、住宅ローン以外にちょっと見当たりません。
だからこそ、繰上げ返済を急がない
ここまでを踏まえると、繰上げ返済に前のめりになるのは少しもったいない選択。金利が1%前後で、団信が付いていて、控除期間中は残高の0.7%が戻ってくる。この条件のローンをわざわざ早く手放す理由が見つかりません。
手元に余裕資金があるなら、まず新NISAやiDeCoの非課税枠を使い切るほうが先。非課税枠は使わなかった年の分が基本的に戻ってこないため、優先順位としては上に来ます。まだ受け皿の口座がないなら、ネット証券でつみたての口座を開いておく(PR)ところから。なお2026年12月の制度改正でiDeCoの拠出限度額も引き上げられ、会社員・公務員は月6.2万円、自営業などの第1号被保険者は月7.5万円となる予定です。
「持ち家に見えて、持ち家ではないもの」に注意
最後に、これは強調しておきたいところ。持ち家が有利だという話は、あくまで土地と建物が自分のものとして残ることが前提。ここが崩れると、話が丸ごと変わります。
借地権付きマンションをどう見るか
最近よく話題になるのが、借地権付きのマンション。土地を所有せず、地主から借りた土地の上に建つ物件で、購入後も地代を払い続けます。定期借地権であれば、期間満了時に建物を解体して土地を返す前提。
これを僕は、持ち家とは呼べないと思っています。実態としては、簡単に手放せない賃貸を長期で借りているようなもの。価格が抑えられている代わりに、最後に土地が残らず、売却時の流動性も落ちる。つまり持ち家を選ぶメリットのほとんどを失っています。安く見えることには、たいてい理由があるということ。
買う前に確認したい5つ
- 土地の権利は所有権か、借地権か(借地権なら期間と地代、期間満了時の扱い)
- その物件は、10年後・20年後に「借りたい人」がいる立地か
- 省エネ基準を満たし、住宅ローン控除の対象になるか
- 管理費・修繕積立金の将来の値上げ計画が示されているか
- 返済額と維持費を足した月額が、収入が2割減っても払える水準か
まとめ:基本は持ち家、賃貸は「自由を買う」選択
数字で並べても、制度を踏まえても、僕の結論は変わりません。基本は持ち家。賃貸のほうが安く済んだという話は、貸す側が利益を取っている以上そうそう起こらないし、最後に何も残らないという事実は動きません。
そのうえで、賃貸を選ぶこと自体は否定しません。ただそれは「得だから」ではなく、自由と不確実性に対してコストを払うという選択。そこを自覚できているなら、まったく問題ないと思います。逆に一番もったいないのは、どちらが得かを何年も比べ続けて、結局どちらも選ばないまま家賃を払い続けること。持ち家にせよ賃貸にせよ、自分がどちらのコストを払っているかを分かったうえで決める。それだけで、この論争はだいぶ静かになります。
※本記事は執筆時点の情報にもとづきます。税制・制度は変わることがあるので、最新は国税庁等の公式情報でご確認ください。一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。
note には、仕事やキャリアの考えごとを書いています
公認会計士・税理士として実務で見ていること、キャリアで迷ったこと、お金との距離感。答えの出ていない話も含めて置いています。

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