退職後の生活を支える手続きは、退職日から2ヶ月の間に集中して発生します。失業給付・健康保険・国民年金・翌年の確定申告——このどれもが「期限を過ぎると受けられない権利」や「余計に払うだけの保険料」を生みやすい領域です。本記事では、令和8年度(2026年度)の最新の給付率・保険料率をもとに、退職直後にやるべきToDoを時系列でまとめました。
退職直後2ヶ月で必要な4つの手続き:全体像とタイムライン
退職後にやるべき手続きは、大きく分けて次の4領域に整理できます。
- ① 失業給付(ハローワーク):離職票が届き次第、住所地のハローワークで求職申込み
- ② 健康保険の切替:退職翌日から20日以内に「任意継続」/14日以内に「国保加入」/すみやかに「家族の被扶養者」いずれかを選択
- ③ 国民年金の切替:退職翌日から14日以内に市区町村で第2号→第1号へ変更
- ④ 翌年の確定申告:退職した年の12月31日時点で再就職していなければ、翌年2月16日〜3月15日に自身で申告
「自己都合」か「会社都合」かで流れが大きく変わる
失業給付の受給開始時期と給付日数は、離職理由で扱いが変わります。自己都合退職は原則として待期7日+給付制限2ヶ月が付くため、実際に手当が振り込まれるのは離職から約3ヶ月後。一方、会社都合(解雇・雇止め・希望退職への応募など)は待期7日のみで、最短1ヶ月弱で受給が始まります。「離職票−2」に記載される離職区分(1A・2A・3Aなど)が判定材料になるため、届いた離職票の記載内容は必ず確認してください。
2ヶ月チェックリスト(時系列)
| 時期 | 手続き | 提出先 |
|---|---|---|
| 退職日〜7日 | 健康保険証を会社へ返却/年金手帳・雇用保険被保険者証を受け取る | 会社 |
| 退職翌日〜14日 | 国民年金第1号への切替/国保加入(国保を選ぶ場合) | 市区町村 |
| 退職翌日〜20日 | 健康保険の任意継続を選ぶ場合の申請 | 協会けんぽ/健保組合 |
| 離職票到着後(10日〜3週間) | ハローワークで求職申込み・受給資格決定 | ハローワーク |
| 翌年2月16日〜3月15日 | 確定申告(再就職せず年内に転職していない場合) | 税務署/e-Tax |
離職票は退職から10日〜3週間ほどで郵送されるのが一般的で、健康保険や年金の切替はそれを待たずに動く必要があります。手続きが遅れると、無保険期間や国民年金未納期間が発生してしまう点に注意してください。
失業給付:受給までの日数・給付日数・手取り換算
基本手当の日額と上限
失業給付(基本手当)の日額は、退職前6ヶ月の賃金合計を180で割った「賃金日額」に、45〜80%の給付率を掛けて算出されます。給付率は賃金が低いほど高く、年齢によって上限額も異なります。令和8年度の基本手当日額の上限額は次の通りです(厚生労働省告示に基づく金額)。
| 年齢区分 | 基本手当日額の上限 |
|---|---|
| 30歳未満 | 7,065円 |
| 30〜44歳 | 7,845円 |
| 45〜59歳 | 8,635円 |
| 60〜64歳 | 7,420円 |
例えば45〜59歳で賃金日額が15,000円だった人は、給付率50%として日額7,500円が支給されます。基本手当は非課税なので、所得税・住民税・社会保険料の対象になりません。
給付日数早見表(自己都合・会社都合)
| 被保険者期間 | 自己都合・定年 | 会社都合(45〜59歳の例) |
|---|---|---|
| 10年未満 | 90日 | 90〜180日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 | 240日 |
| 20年以上 | 150日 | 330日 |
会社都合の給付日数は年齢と被保険者期間の組み合わせで変わり、45〜59歳・20年以上勤務なら最長330日。自己都合の2倍以上の差がつく設計です。希望退職に応募する場合、退職理由が「会社都合」扱いになるかどうかで手取り総額が数十万〜百万円単位で変わるため、退職合意書の文面は事前に確認しておきたいところです。
健康保険は3択:任意継続・国保・家族の被扶養
3つの選択肢と保険料の決まり方
退職翌日から健康保険は空白にできません。選択肢は3つです。
- ① 任意継続被保険者:退職前の健保組合(協会けんぽを含む)にそのまま2年間加入。保険料は在職中の約2倍(労使折半がなくなるため)。ただし協会けんぽの場合は「標準報酬月額の上限」があり、令和8年度は月額30万円が上限(月保険料の目安は約3万円)
- ② 国民健康保険:市区町村が運営。保険料は前年所得ベースで計算されるため、退職翌年は前年の給与所得が満額反映され保険料が高くなりやすい
- ③ 家族の被扶養者:配偶者や子が加入する健保に「被扶養者」として入る。年収130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)などの要件あり。保険料負担はゼロ
年収別シミュレーション比較
退職前年収別に、退職後1年目の月額保険料の目安を比較しました(令和8年度・東京都・40歳以上の介護保険料込み・概算値)。
| 退職前年収 | 任意継続(協会けんぽ) | 国保(東京都23区・単身) | 家族の被扶養 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 約 2.5万円/月 | 約 2.7万円/月 | 0円 |
| 600万円 | 約 3.0万円/月 | 約 4.1万円/月 | 0円(要件超過で不可の可能性) |
| 800万円 | 約 3.0万円/月(上限) | 約 5.8万円/月 | 0円(要件超過で不可の可能性) |
| 1,200万円 | 約 3.0万円/月(上限) | 約 8.0万円/月(上限近辺) | 0円(要件超過で不可の可能性) |
※国保は自治体・世帯構成・扶養家族の有無で変動。任意継続の上限額は健保組合ごとに異なるため、加入先の健保に必ず確認してください。
年収が高いほど任意継続が有利になる傾向がある一方、年収が低めで単身なら国保のほうが安くなるケースもあります。家族の健保に被扶養で入れるならこれが最有力ですが、失業給付の日額が3,612円以上(年収130万円換算)だと被扶養者要件から外れる可能性がある点は要注意です。任意継続は「加入から2年経過」または「保険料未納」がないと途中で国保に切り替えられないため、選択は初動で慎重に。
国民年金の切替と免除・納付猶予申請
第2号被保険者から第1号被保険者への切替(14日以内)
会社員のうちは厚生年金保険(第2号被保険者)に加入していますが、退職後は国民年金の第1号被保険者に切り替える必要があります。手続きは退職翌日から14日以内に、住所地の市区町村役場で行います。持参物は年金手帳(または基礎年金番号通知書)・退職日が分かる書類・本人確認書類。
令和8年度の国民年金保険料は月額17,510円。年間で約21万円と負担は決して軽くありませんが、未納のまま放置すると将来受給する老齢基礎年金が減額されるだけでなく、障害基礎年金・遺族基礎年金の受給資格にも影響します。
退職特例で「前年所得ゼロ扱い」の免除申請が可能
失業を理由に保険料の納付が難しい場合、通常の免除・納付猶予制度が利用できます。特に押さえておきたいのは失業等による特例免除で、通常は本人・世帯主・配偶者の前年所得で審査されるところ、退職者本人の前年所得を「ゼロ」とみなして審査してくれる仕組みです。
免除区分は全額免除・4分の3免除・半額免除・4分の1免除の4段階。全額免除でも将来の老齢基礎年金は「保険料を全額納付した場合の1/2」として計算されるため、単なる未納より圧倒的に有利です。申請時には離職票または雇用保険受給資格者証の写しを添付します。追納は10年以内なら可能で、家計に余裕が出た時点で遡って納付すれば老齢基礎年金への反映も元に戻せます。
翌年の確定申告:源泉徴収票と還付のしくみ
退職所得は原則「分離課税・申告不要」だが例外あり
退職金は「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していれば、退職所得控除と1/2課税が適用された税額を退職時に源泉徴収して完結します。この場合、原則として確定申告は不要です。ただし、次のケースでは申告することで税金が戻ることがあります。
- 年内に再就職せず、給与所得の年末調整を受けていない
- 医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税含む)・住宅ローン控除(初年度)などがある
- iDeCoの掛金や小規模企業共済等掛金がある
- 退職所得の受給に関する申告書を未提出(一律20.42%源泉徴収されているケース)
給与所得の還付シミュレーション
年内退職者の多くが該当するのは、給与所得の年末調整未了ケース。会社は退職時に「令和○年分 給与所得の源泉徴収票」を発行しますので、これをもとに翌年2月16日〜3月15日に確定申告します。
例えば1〜6月に給与500万円・源泉徴収税額15万円・社会保険料70万円のケースを試算すると、給与所得控除144万円・基礎控除48万円・社会保険料控除70万円で課税所得は約238万円、所得税額は約14万円。既に源泉徴収されている15万円との差額約1万円が還付になります。医療費控除やふるさと納税があればさらに増加。国民年金保険料も社会保険料控除の対象なので、退職後に自分で支払った分は忘れずに合算してください。
住民税は「6月に前年所得ベースで一括請求書が届く」仕組み。退職前に一括徴収されていない場合、6月に4期分の納付書が郵送されます。所得が減った実感がある翌年の6月に、思わぬ大きな請求が届くのはこのためです。退職前に生活費とは別に「翌年住民税用の資金」を数十万円確保しておくと安心です。
まとめ:退職2ヶ月で押さえる4つの動き
退職後の手続きを一言でまとめると、「退職翌日から2週間以内に年金と健保の切替」「20日以内に任意継続の可否判断」「離職票が届いたらすぐハローワーク」「翌年3月に確定申告」の4動作です。給付率・保険料率は令和8年度基準で更新されており、任意継続と国保のどちらが有利かは年収と家族構成で変わります。手続きの1つ1つは煩雑でも、順序と期限さえ押さえれば「知らないうちに損する」事態は防げます。
※ 本記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。給付率・保険料率・税制は変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省・日本年金機構・国税庁ホームページ等でご確認ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・年金相談を提供するものではありません。
note には、仕事やキャリアの考えごとを書いています
公認会計士・税理士として実務で見ていること、キャリアで迷ったこと、お金との距離感。答えの出ていない話も含めて置いています。


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